童話「人魚星」

(あらすじ)
地球から来た少年に、龍に育てられた人魚の少女が恋をするが、少年は地球に帰っていく。後に残った人魚を父親代わりの龍がやさしく見守る。ナレーションによって話が進行する。

(登場人物)
マ ナ:龍に育てられたメスの人魚。10才位。
王子様:地球から来た少年。11才位。
ガルガン:人魚のマナを娘のように育てたオスの青龍。25才位。
ペリカンのおばさん:40才位。

(本文)
遠い未来のお話です。
銀河系の果てに人魚星という星がありました。
人魚星の湖では、たくさんの人魚達が他の生き物達とおおむね平和に暮らしていました。
「おおむね平和」と言ったのは、突然、龍がやってきては人魚達を食べてしまうという恐ろしいことが時々起きたからです。

ある日、龍のガルガンがやってきて、卵を守っていたお母さん人魚を食べてしまいました。
ガルガンは、最近このあたりを縄張りにした若くて乱暴なオスの青龍です。
卵や卵から孵化したばかりの赤ちゃん人魚もガルガンは次々に食べていきました。
でも、そのうちにお腹がいっぱいになり、食べるのをやめました。
その時、孵化したばかりの1匹の赤ちゃん人魚がガルガンを見て親だと思い、すり寄っていきました。
ガルガンは「ふん、腹いっぱいだし、たいしてうまくないし、今食うのはやめておこう」と思いました。

何日か経った後も、赤ちゃん人魚はガルガンを慕い、尾びれをふって愛想を振りまくのでガルガンは可愛く思うようになりました。
そして、赤ちゃん人魚がメスだったので「マナ」という名前をつけて育て始めたのです。

マナが少女になり、食べごたえがありそうな大きさになっても、ガルガンは決して食べようとはしませんでした。
いつしか、マナを娘のように愛おしく思うようになってしまったからです。
マナの方もガルガンをお父さんと呼び、本当の親子のように仲良く暮らしていました。

そんな二人の生活に変化が起きたのは、地球から1隻の宇宙船がきた日でした。
以前から地球人は、時々、人魚星に来て、龍を狩ったり、人魚を密猟したりしていましたが、その日来た宇宙船はどういう訳かピカッと光って湖に落ちてきたのでした。
マナはペリカンのおばさんから「恋人は空から降ってくるのよ」と教えられていたので、
もしかしたら恋人に会えるかもしれないと思い、ガルガンに「お父さん、行ってみよう」と言いました。

湖底では、何人かの地球人が宇宙船の割れ目から出てきました。
しかし、たいていの人は死んでいるか、マナ達が見ている前で死にました。
宇宙船の中で、もがいている少年を見た時、マナは雷に打たれたようなショックを受けました。
少年の姿形があまりに美しかったからです。
「この人こそが私の恋人になる人に違いない」とマナは思い、必死で助けようとしました。
しかし、宇宙船はとてもマナの力では持ち上げることはできません。
マナは思わず大きな叫び声を上げた後、泣き出してしまいました。
すると、泣き声を聞きつけて、ガルガンが来てくれました。
宇宙船の中を見て、ガルガンは心の底で「この少年は助けない方がいいのではないか」とふと思いましたが、気がつくと宇宙船をくわえて、ハスの上に上げていました。
人魚星のハスはとても丈夫なので、宇宙船をのせたくらいではびくともしません。
少年は助かったのです。

少年は、地球連邦の大統領の息子だと名乗りました。
ペリカンのおばさんが「そりゃあ、王子様だ」といったので、マナも少年を王子様と呼ぶことにしました。
王子様はガルガンが嫌いでした。
ガルガンが大きくて乱暴だったので怖かったのです。

王子様はマナに「君は人魚だから、ガルガンの本当の娘じゃない」と言いました。
ペリカンのおばさんも静かにうなずきました。
マナはガルガンが本当のお父さんではないかもしれないと思ったことはありました。
筋力トレーニングをいくらがんばっても、ガルガンのようなたくましい体にならなかったからです。

ペリカンのおばさんが、ガルガンが食事に行っている間に、内緒でマナと王子様を人魚達がたくさんいる西湖に連れて行ってくれました。
「ほら、あそこだよ」とペリカンのおばさんが言った方向を見ると、マナとよく似た人魚達がハスの上に寝そべったり、水面でおしゃべりしたりしていました。
彼女達から少し離れたハスの上にペリカンのおばさんが降り立ち、マナと王子様もおばさんの口の中から降りました。

「すごくきれい」
マナは自分よりも年上の美しい人魚達に見とれました。
婚姻色で鱗がピンクに染まって不思議な輝きを放っている人魚がいました。
赤や青の睡蓮の花を髪に編み込んだり、真珠の首飾りをした人魚もいました。
「私なんかとてもかなわないわ」とマナが言うと
王子様は「そんなことはない。真珠色の鱗はだれよりもきれいだし、なによりマナは僕の
ものだから、一番大切なんだよ」といいました。
「僕のもの」と言われてマナの胸はキュンとなってウルウルしてきました。

うっとりした気分も束の間、次の瞬間、マナは信じられない光景を目にしたのです。
なんと、父のガルガンが自分と同じ姿をした人魚に襲いかかり、食べてしまったのです。
人魚達はパニックになり、逃げ惑いました。
「お父さん、なんてことをするの。みそこなったわ」
マナに言われてガルガンはうろたえ、くわえていた人魚を口から吐き出してしまいました。
そして、苦しそうなうめき声を上げると湖の底へと潜って行きました。

北湖に戻ってから、マナはガルガンに「お父さんなんて大キライ。もうしゃべりたくない」
と言って、しゃべらなくなりました。
王子様とは前より仲良くなって、ハスの森の中でかくれんぼや、追いかけっこをして遊びました。
王子様はマナを抱きしめたり、頭をなぜたりして可愛がってくれました。
そんな二人をガルガンは、悲しそうな顔をして遠くからじっと静かに見ていました。

夜になると、いつも王子様は壊れた宇宙船に戻りましたが、
ある満月の夜、ハスの上でとてもさみしそうに肩を落としてたたずんでいました。
「どうしたの」とマナが尋ねると
王子様は「早く地球に帰りたい」と言ってしゃくりあげて泣き出しました。
王子様もまだまだ子どもだったのです。
「マナがいるから泣かないで。ずっとそばにいるから」
死ぬまで王子様のそばにいたい、それがマナのただ一つの願いでした。

でも、ある朝、地球からお迎えの宇宙船が来ました。
王子様は大喜びしました。
王子様のお母さんは「とんだ修学旅行になったわね」と優しく王子様を抱きしめました。
「ママ、この人魚をお家に連れて帰ってもいい?」と王子様が尋ねると、
お母さんは「だめよ、もうペットはこりごり」といいました。
王子様は「ちゃんと世話するから」と言い
マナも「いっしょに連れていってちょうだい」と何度も頼みました。
でも、お母さんは決して首をたてに振ってはくれませんでした。
童話「人魚星」

(あらすじ)
地球から来た少年に、龍に育てられた人魚の少女が恋をするが、少年は地球に帰っていく。後に残った人魚を父親代わりの龍がやさしく見守る。ナレーションによって話が進行する。

(登場人物)
マ ナ:龍に育てられたメスの人魚。10才位。
王子様:地球から来た少年。11才位。
ガルガン:人魚のマナを娘のように育てたオスの青龍。25才位。
ペリカンのおばさん:40才位。

(本文)
遠い未来のお話です。
銀河系の果てに人魚星という星がありました。
人魚星の湖では、たくさんの人魚達が他の生き物達とおおむね平和に暮らしていました。
「おおむね平和」と言ったのは、突然、龍がやってきては人魚達を食べてしまうという恐ろしいことが時々起きたからです。

ある日、龍のガルガンがやってきて、卵を守っていたお母さん人魚を食べてしまいました。
ガルガンは、最近このあたりを縄張りにした若くて乱暴なオスの青龍です。
卵や卵から孵化したばかりの赤ちゃん人魚もガルガンは次々に食べていきました。
でも、そのうちにお腹がいっぱいになり、食べるのをやめました。
その時、孵化したばかりの1匹の赤ちゃん人魚がガルガンを見て親だと思い、すり寄っていきました。
ガルガンは「ふん、腹いっぱいだし、たいしてうまくないし、今食うのはやめておこう」と思いました。

何日か経った後も、赤ちゃん人魚はガルガンを慕い、尾びれをふって愛想を振りまくのでガルガンは可愛く思うようになりました。
そして、赤ちゃん人魚がメスだったので「マナ」という名前をつけて育て始めたのです。

マナが少女になり、食べごたえがありそうな大きさになっても、ガルガンは決して食べようとはしませんでした。
いつしか、マナを娘のように愛おしく思うようになってしまったからです。
マナの方もガルガンをお父さんと呼び、本当の親子のように仲良く暮らしていました。

そんな二人の生活に変化が起きたのは、地球から1隻の宇宙船がきた日でした。
以前から地球人は、時々、人魚星に来て、龍を狩ったり、人魚を密猟したりしていましたが、その日来た宇宙船はどういう訳かピカッと光って湖に落ちてきたのでした。
マナはペリカンのおばさんから「恋人は空から降ってくるのよ」と教えられていたので、
もしかしたら恋人に会えるかもしれないと思い、ガルガンに「お父さん、行ってみよう」と言いました。

湖底では、何人かの地球人が宇宙船の割れ目から出てきました。
しかし、たいていの人は死んでいるか、マナ達が見ている前で死にました。
宇宙船の中で、もがいている少年を見た時、マナは雷に打たれたようなショックを受けました。
少年の姿形があまりに美しかったからです。
「この人こそが私の恋人になる人に違いない」とマナは思い、必死で助けようとしました。
しかし、宇宙船はとてもマナの力では持ち上げることはできません。
マナは思わず大きな叫び声を上げた後、泣き出してしまいました。
すると、泣き声を聞きつけて、ガルガンが来てくれました。
宇宙船の中を見て、ガルガンは心の底で「この少年は助けない方がいいのではないか」とふと思いましたが、気がつくと宇宙船をくわえて、ハスの上に上げていました。
人魚星のハスはとても丈夫なので、宇宙船をのせたくらいではびくともしません。
少年は助かったのです。

少年は、地球連邦の大統領の息子だと名乗りました。
ペリカンのおばさんが「そりゃあ、王子様だ」といったので、マナも少年を王子様と呼ぶことにしました。
王子様はガルガンが嫌いでした。
ガルガンが大きくて乱暴だったので怖かったのです。

王子様はマナに「君は人魚だから、ガルガンの本当の娘じゃない」と言いました。
ペリカンのおばさんも静かにうなずきました。
マナはガルガンが本当のお父さんではないかもしれないと思ったことはありました。
筋力トレーニングをいくらがんばっても、ガルガンのようなたくましい体にならなかったからです。

ペリカンのおばさんが、ガルガンが食事に行っている間に、内緒でマナと王子様を人魚達がたくさんいる西湖に連れて行ってくれました。
「ほら、あそこだよ」とペリカンのおばさんが言った方向を見ると、マナとよく似た人魚達がハスの上に寝そべったり、水面でおしゃべりしたりしていました。
彼女達から少し離れたハスの上にペリカンのおばさんが降り立ち、マナと王子様もおばさんの口の中から降りました。

「すごくきれい」
マナは自分よりも年上の美しい人魚達に見とれました。
婚姻色で鱗がピンクに染まって不思議な輝きを放っている人魚がいました。
赤や青の睡蓮の花を髪に編み込んだり、真珠の首飾りをした人魚もいました。
「私なんかとてもかなわないわ」とマナが言うと
王子様は「そんなことはない。真珠色の鱗はだれよりもきれいだし、なによりマナは僕の
ものだから、一番大切なんだよ」といいました。
「僕のもの」と言われてマナの胸はキュンとなってウルウルしてきました。

うっとりした気分も束の間、次の瞬間、マナは信じられない光景を目にしたのです。
なんと、父のガルガンが自分と同じ姿をした人魚に襲いかかり、食べてしまったのです。
人魚達はパニックになり、逃げ惑いました。
「お父さん、なんてことをするの。みそこなったわ」
マナに言われてガルガンはうろたえ、くわえていた人魚を口から吐き出してしまいました。
そして、苦しそうなうめき声を上げると湖の底へと潜って行きました。

北湖に戻ってから、マナはガルガンに「お父さんなんて大キライ。もうしゃべりたくない」
と言って、しゃべらなくなりました。
王子様とは前より仲良くなって、ハスの森の中でかくれんぼや、追いかけっこをして遊びました。
王子様はマナを抱きしめたり、頭をなぜたりして可愛がってくれました。
そんな二人をガルガンは、悲しそうな顔をして遠くからじっと静かに見ていました。

夜になると、いつも王子様は壊れた宇宙船に戻りましたが、
ある満月の夜、ハスの上でとてもさみしそうに肩を落としてたたずんでいました。
「どうしたの」とマナが尋ねると
王子様は「早く地球に帰りたい」と言ってしゃくりあげて泣き出しました。
王子様もまだまだ子どもだったのです。
「マナがいるから泣かないで。ずっとそばにいるから」
死ぬまで王子様のそばにいたい、それがマナのただ一つの願いでした。

でも、ある朝、地球からお迎えの宇宙船が来ました。
王子様は大喜びしました。
王子様のお母さんは「とんだ修学旅行になったわね」と優しく王子様を抱きしめました。
「ママ、この人魚をお家に連れて帰ってもいい?」と王子様が尋ねると、
お母さんは「だめよ、もうペットはこりごり」といいました。
王子様は「ちゃんと世話するから」と言い
マナも「いっしょに連れていってちょうだい」と何度も頼みました。
でも、お母さんは決して首をたてに振ってはくれませんでした。

「じゃあ、あの大きい龍を標本にしてお兄ちゃんへのお土産にしてもいい?」
王子様が指差したのは、マナを心配して見つめるガルガンでした。
お母さんが「ダメよ。みんな、そっとしておいてあげましょう」と言いました。

王子様はマナと別れるのがつらかったのですが、カブト虫形の宇宙昆虫が死んだ時にとてもイヤな気分になったことを思い出し、我慢しました。
「僕は地球へ帰るから、おまえは人魚のところへお行き」と王子様は言いました。
マナは涙でいっぱいになった目をして首を左右に振りました。
「楽しい思い出を作ってくれてありがとう」
そう言った王子様の目にも涙が光っていました。

王子様を乗せた宇宙船は北湖の上空を旋回して去って行きました。
「死ぬまで王子様のそばにいたい」というマナの願いは叶えられなかったのです。
もう二度と王子様と会えないかもしれないと思い、マナはいつまでも泣き続けました。

そばにガルガンがいることにマナが気付いた時には夜になっていました。
「お父さん。マナはもう生きて行くのがつらすぎる。食べたかったら食べてもいいよ」
マナの言葉を聞いたガルガンは大きな口を開けて食べようとしました。
目をつむって待っていたマナは、いくら待ってもガルガンが食べないので目を開けました。
そこには、口をひらけたまま、涙と鼻水とよだれにまみれたガルガンの姿がありました。
「お父さん、やっぱり好き。今まで冷たくしてごめんなさい」
マナは泣きながらガルガンを抱きしめました。
青い空にぽっかり浮かんだ黄色い月が、優しく二人を照らしていました。
                     (おわり)

「じゃあ、あの大きい龍を標本にしてお兄ちゃんへのお土産にしてもいい?」
王子様が指差したのは、マナを心配して見つめるガルガンでした。
お母さんが「ダメよ。みんな、そっとしておいてあげましょう」と言いました。

王子様はマナと別れるのがつらかったのですが、カブト虫形の宇宙昆虫が死んだ時にとてもイヤな気分になったことを思い出し、我慢しました。
「僕は地球へ帰るから、おまえは人魚のところへお行き」と王子様は言いました。
マナは涙でいっぱいになった目をして首を左右に振りました。
「楽しい思い出を作ってくれてありがとう」
そう言った王子様の目にも涙が光っていました。

王子様を乗せた宇宙船は北湖の上空を旋回して去って行きました。
「死ぬまで王子様のそばにいたい」というマナの願いは叶えられなかったのです。
もう二度と王子様と会えないかもしれないと思い、マナはいつまでも泣き続けました。

そばにガルガンがいることにマナが気付いた時には夜になっていました。
「お父さん。マナはもう生きて行くのがつらすぎる。食べたかったら食べてもいいよ」
マナの言葉を聞いたガルガンは大きな口を開けて食べようとしました。
目をつむって待っていたマナは、いくら待ってもガルガンが食べないので目を開けました。
そこには、口をひらけたまま、涙と鼻水とよだれにまみれたガルガンの姿がありました。
「お父さん、やっぱり好き。今まで冷たくしてごめんなさい」
マナは泣きながらガルガンを抱きしめました。
青い空にぽっかり浮かんだ黄色い月が、優しく二人を照らしていました。

                                   (おわり)